シルバーカーで颯爽と道路を駆け抜けたおばあちゃん
三輪車で買い物に行くおばあちゃん
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私の祖母は、大阪の下町に住むチャキチャキのおばあちゃんです。
よく働き、よく食べ、よくおしゃべりする、明るくて誰からも好かれています。
おばあちゃんはもう80歳近いのですが、一人暮らしで、
私のお父さんだけ近所に住んでいます。なにせチャキチャキなので、
三輪車で買い物も一人で行くし、お酒だって少し飲んじゃいます。
そんなおばあちゃんに異変が起こったのは、去年の春でした。
遊びに行ったら手に大きな青アザがあって、聞いてみると買い物で
三輪車から降りるときに、転んでしまったと言うのです。
青アザだけで済んでよかったけれど、骨折でもしていたら大変です。
いくらスーパーチャキチャキなおばあちゃんでも年だし・・・。
家族は心配し始め、家族会議を開くことになりました。
近所に住んでいる私の父、一駅離れたところにいるおばあちゃんの次男夫婦、
奈良に住んでいる三男夫婦で集まります。
「年やから気をつけてとか言うたら、怒るやろうな~。」
「買い物は私が行くって言っても、自分で行くって言いそうやね。」
「ネットスーパーとかは自分じゃでけへんやろな。」
急に倒れた父
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結果、こちらが手助けすると、チャキチャキおばあちゃんの
プライドを傷つけることになりそうなので、シルバーカーを買って、
三輪車より安全に買い物ができるようにしてあげようということになりました。
ふむふむ。これなら、おばあちゃん納得してくれそう。
ところが、考えが甘かった。おばあちゃんは断固拒否でした。
理由は2つ。近所の同じくらいの年の人はそんなもの使ってない。
この前はたまたま転んだだけで、そんなもの使わなくても一人で歩ける。
という主張でした。
シルバーカーは既に購入してあって、
プレゼントしたので一応おばあちゃんの家の玄関に置いてありますが、
使ったことはなく、きれいな状態で飾られています。
それから3ヶ月、シルバーカーは骨董品のように並んだままでした。
しかし、とうとうシルバーカーが道路デビューするときがやってきました。
6月に入って、汗ばむ季節になった頃です。
梅雨の雨で延びた庭の蔦をお父さんが切っていたのですが、急に倒れたのです。
壁の外で切っていたところに倒れて、それを発見した近所のおばさんと娘さんが救急車を呼んでくれました。
その後、病院からおばあちゃんに連絡がきたのです。
たまたまそのときに次男が来ていたのですが、自転車で立ち寄っただけなので車がありません。
三輪車はあっても、実はおばあちゃんの三輪車、こぐのがすごく遅いんです。
歩いても買い物に行くのにかかる時間は変わらないのですが、荷物を入れるために使っていました。
シルバーカーで颯爽と道路を駆け抜けたおばあちゃん
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病院までは徒歩で15分。タクシーを呼んで家に到着するのを待つくらいなら、
歩いたほうが早い距離です。おばあちゃんは鞄だけ持って、すぐに立ち上がりました。
そのときに見ていた次男は言います。おばあちゃんは迷うことなく、シルバーカーを手にしたと。
おばあちゃんは、シルバーカーを押して病院まで急ぎました。
いつもは三輪車に乗ってもゆっくりなのに、成人男性の早歩きくらいのスピードが出ていたそうです。
病院に着いたときは時間外だったので面会扱いで名前を記入しないといけなかったのですが、
おばあちゃんは頭が真っ白になり、手が震えて書けなくて、看護婦さんに書いてもらいました。
お父さんは、残念ながら亡くなりました。特に病気などの影響ではなく、
倒れたのは不整脈だったそうです。本当に急でした。
でも、シルバーカーで颯爽と道路を駆け抜けたおばあちゃんは、
お父さんが亡くなる前に間に合ったのです。
意識はなかったそうですが、もしかしたら声は聞こえていたかもしれません。
これ以降、シルバーカーの方が三輪車より小回りが利くし、
買い物のときは荷物だって入れられるので、おばあちゃんは自分から
シルバーカーを使ってくれるようになりました。
お父さんが病院へ運ばれたとき、
シルバーカーがなかったら、きっとお父さんの死に目に会えませんでした。
お父さんを含め、皆で買ったシルバーカーが奇跡を起こしてくれました。
おばあちゃんは、いつもピカピカに磨いて、大事に使ってくれています。